墓の中にはなにもない

万年筆画家のサトウヒロシさんが描いた作品です。
細い線を何本も重ねて輪郭を作り、万年筆のインクで着色されています。
生と死、生きることの意義を問いかけています。
自分が嫌いになった男は、自分自身で土を掘り、墓を作って、体を穴の中に埋めてしまいます。
肉体から離れた魂は、街を彷徨い始めます。
誰かに見られることはありません。
触ることもできませんし、食べることもできません。
完全に世界と切り離された男はただただ歩き続けました。
世界は全て色褪せていて、男をスクリーンの中で映画を見ているようです。
彷徨い続ける男は、色彩を持つ少年に出会います。
少年は男と目が合うとニコリと微笑みました。
「なにをしてるの」と声をかけてくることもあります。
肉体と離れてから、はじめて他人に認知された男は、少年を見守ることにします。
少年は少しずつ大人へと成長していき、男の姿が見えなくなってしまいます。
それでも男は見守り続けました。
少年の時間は男にとってはあっという間の出来事でした。
年老いた少年は永遠に目覚めない眠りへとついたのです。
少年と男が一緒にいたのは少しの時間でした。
しかし男にとって少年との出来事はかけがえのないもので、男はたくさん泣きました。
そしてまた男は歩き続けるのです。
自ら墓に入った時とは違う感情を持って。
最後に男が感情を爆発させて叫ぶシーンはジーンときてしまう1冊です。